忍び音 第壱四章「貴方への鎮魂曲」



もしも二人に未来がないなら


     私は貴方と共に死を選ぼう。


もしも未来があるとしても


     それは幸せではないのだろう



選択肢はどれも闇。



何日かぶりに帰ってきた村はどこか優しかった。

もう、ずっとここに居たかのように。


「ただいま戻りました。」

「おかり。どうじゃった?」


彼の優しさが辛かった。

なれど、今は心を鬼にして笑う。


「はい、何とか。頭首にはならなくて済んだのですが。」

「俺らのことか?それなら大丈夫じゃろ。」

雅治の何の根拠もないただの言葉。

けど、今のにとっては辛かった。

それは、貴方が婆様を殺したから?

そお思ってしまうのだ。


「今日は、ゆっくりしんしゃい。後は俺が」

「ありがとう…雅治。」


顔は笑っていようとも、心は泣いていた。


その日の雅治は何時も以上に優しかった。

でも、はその優しさが痛かった。心に刺さった。

そして時は残酷にも流れ、終幕の時が遣って来る。













夜―――。


虫の声も鳥の声も絶え全てが闇に包まれた時

そっと雅治のそばに寄り添う。


「なんじゃ、今日のは甘えん坊じゃの」


雅治はただそっと抱き寄せる。

何も知らずに―――――――


刹那。


風が吹いた。
それとともに闇に光る刃を雅治に突き立てる。

それを見て、すぐに気づいた雅治はの腕をつかみ止める。



「物騒じゃの。」


「―――――っっ!」



失敗した。






そお思った。











なれど再びその刃は雅治自らの手によってその体に突き刺さる。


「雅治!!!!?!」

彼の体からは大量の出血。


「どうして!!」

彼は優しく微笑む。

…お前さんこそどうしてためらった。」

「ぇッ…。」

「あの時一瞬、ためらっていなければ、俺は殺せていたのに。」

「……それは。」

「俺がを愛しているようにお前も俺を愛してくれていたんだな。」

「……雅治!ごめんなさい。やっぱり…。」

「かまわんよ、知っとる。お前さんが俺を殺すつもりで帰ってきたことも、お前さんが優しいことも。」

力なくもたれかかる雅治を強くは抱きしめる

「いいんじゃ、早く逃げろ。時期に村のものが来る。」

「でも!!」

「早く!」

はまた、涙を流す。

彼の前では何度身になるだろう。

…愛し…とー…ょ。」

「ま…さ…は…ぁ…っ」



二人の最後の口付けは浅く短いものだった。









貴方への鎮魂曲。



涙と共に歌われたその曲は


泣き婆様のよく歌ってくれた歌。