忍び音 第拾弐章「己の心夜叉なりて」
が村に着いた時には、もう空は真っ黒であった。
ただ一人、を優しく出迎えるブン太。
母も父も忙しく、立ち回っていた。
「…ょぉ。久しぶり」
「…ブン太。久しぶり。」
もう、ずいぶんと会っていなかった様に思えた
ブン太は傷も回復している様子で優しく抱きしめてくれた。
ただ何も言わずに。
「ブン太………」
少し、動揺していた。
こんなことになったのは私のせいだから
そお思っていたのがブン太の優しさで吹っ飛んだ。
けど、ブン太への罪悪感は増していった。
「お前、頭首になるんだよな?これから…」
「……私は…きっと無理。」
「なんでだょ」
「だって、初任務だってまだ終えてない上に……」
そこでは言葉を切った。
終ってない上に…その人を本気で愛してしまった。
などと言えない。
まして、私のことを思っていてくれるブン太になんて
しかし、ブン太は知っていた。
「その上…何だょ。敵を好きになったとでも言うのかょ!」
は、勢いよく吐き出された言葉にただ驚くばかりだった。
「どうして…」
そお質問するに
「お前に文を届けたのは俺だ。あんな幸せそうに飯なんか作ってりゃ分かる!」
「ブン太……」
「俺、お前に言ったよな?好きだって。俺ら、ずっと一緒にいたじゃんか!これからだって一緒にいようぜ!」
力強いブン他の言葉とは裏腹に声は少し震えていた。
「お前が愛したって、あいつは敵!敵の頭首、は俺らの頭首だ!幸せになれんのかょっ!」
「……………。」
分かっていたけど、信じたくない事実を言われは何もいえなくなった。
「俺が、幸せにしてやる。」
その言葉と同時に強くを抱きしめる。
ブン太の手は少し震えていた。
なれど、今のはやはり、頭をよぎるのはあの人のことばかり。
ブン太がいくら優しくしてももう心はきっとあの人のそばにいた。
そっとブン太から開放されたは「ありがとう」とだけ言い残しその場を去った。
家に帰り、父と母に挨拶をしようと向かった部屋には婆様の亡骸が横たわっていた。
母の瞳には涙が。
父の目にも……
婆様は酷く傷を負われていた。
の存在に気づいた父が、のいなかった三ヶ月のことを離してくれた。
「婆様は、お前のことを思って、一人で紫苑葉隠れの所に行った。」
「なぜです!私に任せて…」
「、お前にはあの人を殺められるか?」
言葉を失う。
「無理であろう、だから婆様が…」
「でも、婆様はこんな姿に…」
「そうだ、お前でなければならぬ、でなければあ奴は殺れん」
「…………私のせいですか?私がもっと早く…」
「……………そうだ。」
その言葉に息を呑んだ。
そうだ、私が心を鬼にしていれば。
馬鹿だった。
父の言葉を聞きは一人静かに部屋を出た。
どこへ行くわけもなく、ただひたすら森をさまよった。
一夜歩き続けてさまよい続けて着いた先には
いつも修行をしていた滝だった。
「ここと同じような所で…私の三ヶ月間の誤りは始まったのか…。」
そお思った。
けど、誤りだったのだろうか。
愛したと言う事実は間違ってなどいないのに。
今はそれすらも分からなかった。
ただ見つめる水面に移した自分の姿が心の顔が夜叉へと変わっていく気がした。
その晩、一人、はそっと忍び泣く。
その忍び音は水の中へと消えていった。
忍び音=忍んで泣く声。