忍び音 第壱拾壱章「雲隠れにし夜半の月」
もしも願いがかなうなら
時よ止まれと願いたい―――
もしも願いがかなうなら
二人の幸せ永遠に―――――
あれから三ヶ月――――
二人は結ばれてから更に愛を深めた。
幾度となく体を重ね、愛を確かめ合った。
しかし、再び…止まった歯車は動かされる
――――――――一人の少年によって。
「…もう日が高い、そろそろ起きるか。」
「そうだね…。でも、雅治が離してくれないと起きれないんだけど?」
一ヶ月前とは違い、寄り添って寝ていたと雅治
はその雅治にしっかりと抱きつかれ、起きることができずに困っていた。
「朝食の準備しなきゃ……」
「……名残惜しいの…」
「また…後でね」
優しく笑うと、はまだ温かい彼のそばを離れ調理場に着く
この一ヶ月、毎日繰り返される光景。
一つ一つが幸せだった。
今度は雅治も、本当の笑顔で笑っていた。
だけど、は…ふと、村を思い出す。
「このままで…いぃのかな……」
報告をしたい。
母や父に…そして村の皆に…
私はしあわせなのだ…と
なれどそれはできぬこと…………
「…私は、雅治と生きていくと決めたんだ。だから…」
そお思うことにした。
いずれ時が解決してくれるだろう―――そお思った。
しかし、そうはいかなかった。
それは突然現れた。
――――シュトンッ――
の横を遮り調理場の柱に何かが刺さる。
「……矢文…?」
はそれを開き読み上げる。
「…村から……だ…。」
そこには、前の頭首であり、実のお婆さんである。
婆様がなくなったと記載されていた。
そして―――
「現任務、早急にし。次の頭首にならんため直ちに帰村すべし」
次の頭首はだ。今の任務を早く済ませて帰って来いと書かれていた。
「そんなの無理だよ……。」
「何が無理なんじゃ」
いつもより準備が遅いを心配して雅治がやって来た。
もう、二人の間に隠し事はせぬと誓った。
「これを……」
そお言っては文を雅治に手渡す。
少しの間をおいて読み終えた雅治は一言、ただ
「大丈夫じゃ」
そお言って抱きしめる。
そして
「一度、村へ帰りんしゃい」
そお言って頭を撫でた。
は、雅治が今、けじめをつけて来いと行っているのだと分かった。
俺は大丈夫だから、だから行って来いと。
「はぃ…行って…参ります。」
は、食事の準備を済ませ、足早に出かけた。
まだ昼間だと言うのに雲行きが怪しくなった空を見上げる雅治は
「もう、帰ってこんかもしれんのう…」
そお一人つぶやくのであった。