忍び音 第拾五章「愛ゆえに」
は走った。
ただひたすら。
きっと彼はもう戻らないだろう。
涙は止まれと叫べど不思議と溢れ出る
「ごめんなさい…。」
村に帰り、涙をこらえ報告する。
報告を終え、疲れたからと部屋に戻ろうとすると
ブン太に呼び止められる。
今は、誰にも会いたくなかった。
それがブン太でも。
でも
「大事な話がある。」
そお言われブン太について行く。
「何?ブン太。」
つれてこられた先はあの滝。
「お前、本当にあの男を殺したのか?」
今一番辛い質問。
「ぅん。殺したょ……」
「もう、何ともないのか?」
ただ一言
「うん。へーき」
一生で一番最悪な嘘。
「そっか。」
時間はそこで少しの間、止まる。
そしてまた動き出す。
「じゃあ…俺と一緒にならねーか?」
「えっ?」
行き成りの一言
「お前のこと全部知ってんのは俺だけだ。お前の傷ついた心癒すの、俺じゃ駄目か?」
まさかの一言だった。
けど、今はすぐに答えが出ない。
「少し、考えてもいい?」
「……まだ…あいつのこと。」
「違うよ。少し気持ちが落ち着いたら返事するから。」
「そっか…分かった。」
ブン太は立ち上がった。
「いい返事待ってるぜ」
そお言って、去って行った。
は、彼が去った後も少し川辺で風に当たっていた。
「雅治……。」
そお呟くと同時に、吐き気を催す。
「気持ち悪ぃ…。」
風に当たりすぎたか…と思ったがどうやら違うことに気づいた。
「そう言えば…月の物が…」
はっっとした。
今、私のお腹にはあの人の子が居るのだと確信した。
だけど、このことを母や父村の人には知られてはならない。
ましてやブン太には。
そお思った。
「どうすれば……。」
とりあえず部屋に帰り体に障らないようにする。
もうしばらく黙っていよう。そお決心した。