少しずつ、すこしずつ……
あいつのことが好きになる。
SCRATCH NO・] 「slow」
皆と出会ったあの日から、何日も過ぎた。
季節は少し変わり始めていた。
あれからと言うもの、はちょくちょく部活動に顔を出してはみんなと遊んでいた。
「オサムちゃん……暑苦しい。」
テニス部のメンバーとも慣れ、たくさん会話をすることで、言葉を覚えていった。
また、少しずつ、色んな感情をしっかりと表現できるようにもなった。
「せやけど、ギュッてしてた方が落ち着くやん!」
「違う!それは眠る時!それと…悲しいとき?」
そう言って、セクハラまがいな監督をはがし取り、は一氏の元に向かう。
「ユウジっ!テニス教えて!」
「ん?ええで…こっちおいで」
あれ以来、は一氏を第二の兄のように慕っていた。
「はぁ〜〜〜〜寂しいなぁ〜〜。お父さんは悲しい。」
「変なこと言ってないで、早く練習始めてください監督。」
相変わらず、厳しい口調で言い放つ財前も、
をあの一件で知り合っていたのですんなり受け入れた。
が来るようになってから、少しずつ部の空気が和むwと部員たちは口々に言い。
心からを歓迎していた。
ただ、蔵ノ介は少し、どこか心が痛んでいたことに気付かずに。
そんなある日、蔵ノ介は家に帰り、と二人で夕飯の準備をしていた。
「、この人参の皮むいでくれへん?」
「わかった」
「あぁ〜お鍋に火ぃつけて…」
そう言いながらガスコンロに手をかざそうとした時、一本の電話が鳴り響く。
――――――――――トゥルルルルルル
「あっ…電話…」
そう言ってとりに走ろうとするを止め
「俺が出るわ^^人参きりよってな」
と受話器をとりに走る。
「人参…人参…」
それに「うん」と答えた後、はまた人参に向き直り、皮ムギに集中する。
キッチンから少し離れた所にある電話の受話器をとった蔵ノ介は
ディスプレイを見て兄だと分かり受話器を上げた。
「もしもし?」
「あぁ…もしもし?俺だけど」
「んぁ、兄貴?どないしたん?」
「実は……の両親が見つかった。」
「ほんか?」
「あぁ…それで、会いに行ったんだ。」
「どうやった?」
「それが・・・・・・・・・・・・
蔵ノ介は、兄から両親のことを聞き唖然となった。
ずっとが待っていた両親は、彼女を捨てたことをなんとも思ってはいなかった。
「蔵?誰から…電話?」
行き成り現れたによって意識を戻し、はっとする。
「いや…兄貴。元気にしてるかな?ってさ…」
もう、切れていた電話をそっと受話器に置き、スタスタとキッチンに向かった。
に心配をかけまいと、明るく振舞う。
「さぁ。料理の続きを…」
そう思っていた蔵ノ介だが、キッチンは綺麗に片付けられて
今日のメニューがキチンとリビングのテーブルに並べられていた。
「え?…すごい!。一人でやったのか?」
「ぅん^^お料理は最近、小春に教わったの」
嬉しくなっての頭を撫でると、も嬉しそうに微笑み返してくれた。
「じゃぁ食べるか^^」
「うん」
そして、その日の夕食は楽しく過ごすことができた。
しかし、蔵ノ介の中に残るモヤッとしたものは消えなかった。
案の定……次の日に事件は起こるのであった。