忍び音 第九章「何時とは無しに」




自分の中の二つの気持ちが交差する。

ブン太を傷つけた相手―――
  
   けれどそれは想い人で、過去を悔やんでいる。


このまま、私が動かなければ村は―――――






雅治の話を聞いて数日たった日の朝、起きたのは昼過ぎ。
 

「寝すぎちゃった…。アレ?雅治様?」


雅治の姿はどこにも無く、一人身支度をする。

「どこ行っちゃったんだろう…」


疑問に思いながらも昼食の準備に取り掛かろうと調理場に立つ。


「嫌な夢…見ちゃた…なぁ〜」


そして、思い出した夜の夢。

昨夜、は任務遂行の夢を見た。
ただ、悲しく、愛する人否…愛した人を切る。



「あんな夢見たけど…やっぱり…私に雅治様は…」



「俺が何じゃ?」





――――――きゃっ!!



行き成りの登場にびっくりして持っていた包丁を落とす。

しかし、素早く雅治はキャッチする。


「危ないのう…。が怪我でもしたらどうするんだぁ」

「ぁ…すみません。ありがとうございます。てか、すごいですね!」

「おぅ、昨日言ったじゃろ?俺は忍びだって。」

「そうでした^^;」

「おっ。うまそうな飯ができとるのう、完成はまだか?」

「はい!もうすぐですから、向こうで待っててください!」

「そうか、そんじゃったら。」




そそくさと席に着く雅治を見て、なんだか子供みたいと微笑む


「分かってはいた。分かってはいる。何時までもこんなこと続けることはできないって。」


は、もう、心に決めていた、今日しかない…と。
任務遂行・今夜。空や闇に包まれし時。


















そして―――――――――

  
      

いつもは眩い日差しが差し込む部屋に悲しみの蒼と漆黒の闇が入り込む時。



はそっと雅治の枕元に立つ。

気配は消した。


そっと心臓と垂直に立てた刀が光る




意を決した時―――――――







  「―――――――どこにも行くな。」



は思わず刀を引く。

その瞳には涙が。


まさか……と……。



ただあふれんばかりの涙を止めることに必死だった

分かってた―――――――

       自分がこの人を愛してしまったこと


なのに自分は――――――

       己の最悪さに涙した。


そして、彼の愛に涙した。



そして、彼の小屋を飛び出した――――――――――――
 
     
 
            もう、二度と戻らぬ覚悟とともに。