世の中って…色々なことがある
この瞬間男はそう思うしかなかった―――――
SCRATCH NO・V 「wound」
今…俺の目の前にいる少女は夢か幻か…それとも現実か。
「………。」
黙ったまま俺を見つめる少女はどう見ても…人間。
しかし、髪は伸び、瞳孔を開き、衣服を身にまとっていなかった。
「信じられへん…お前。野生児か?」 *野生児=野生の生き物に育てられた子
洞窟の中、俺の質問の声だけがこだまする。
返事の無い問いかけは洞窟の奥に消え、二人のなんともいえない空間だけが動いていた。
「と…兎に角…村の人が心配してたんや…連れて帰えらんと」
そお思い、少女に近づく蔵ノ助だったが………
―――――――がっ!!!
人間になれていない少女は恐れの余り近づいた蔵ノ助の左腕を勢いよく引っかき飛ばした。
「痛っっつ!!…うわっ!」
ドサッ!!!!!
行き成り、引っかかれ俺は思いっきり後部へ倒れる。
「ぅ…がぁぁ!ぅぅ。」
その際、軽い抵抗で少女を突き飛ばした。
俺が、飛ばされたことにもびっくりしたが
その後続けて、少女が呻きを上げたことにびっくりした
「ぇっ!?何や?」
俺は、わけが分からないまま恐る恐る少女に近づく
「っ…突き飛ばしたんまずかったか?」
軽く突き飛ばしただけだと言うのに、その少女は死んだように眠っていた。
「何?!俺…殺してもうたん?」
打ち所が悪かったのか?
一瞬、本当に殺してしまったと思った俺はあわてて兄貴に電話をした。
――――――トゥルルルルルル
ガチャ――――
「もしも……っ「あっ!兄貴!俺や!」
「ん?蔵ノ助?どないしたん?」
「やばい!俺。様分からんけど、探しよった女の子殺してしもた!!」
「はぁ!!何しとんねん!!…てか、どういうことやねん!」
「わからへん!ちょっと突き飛ばしてん!っほんなら…」
「ええゎ!とっとりあえず行くわ!今どこや!」
行き成りのことで兄もあわててこちらに来てくれた。
案外近くにいた兄貴は10分位で洞窟に到着し、あわてて二人で少女に駆け寄った。
「軽く突いたくらいでまさか死ぬとわ思わへんかってん!!」
先に駆け寄った兄貴は呼吸や脈をみた。
そして周りを見渡して小さなガラスのような破片を蔵ノ助に渡した。
「蔵ノ助…まだ死んでへんで。」
「えっ?」
びっくりした蔵ノ助をよそに兄は説明を始める。
「お前と別れる前に渡したやろ?コレ…」
そう言ってさっき渡したガラスの破片を指差す。
よく見ると…何か…薬のような…
「あっ!麻酔薬。」
「せや。安定せーへん様子で捕まえられへんかったあかんからってお前にもたせたやろ?」
そう言えば…とつい小一時間前を思い出す。
昔、山で発見された子供は、動物に育てられていて、
捕獲する際に手がかかったと言う事実もあり
それを想定した兄貴は俺に、麻酔薬を持たせたのだ。
「なら…この子は…」
「偶然にかぶった麻酔で眠ってるだけや」
「ホンマかぁ・・・・よかったぁ〜…。」
それを聞いて安心した蔵ノ助はそっと少女のそばに座り込む。
「にしても、こんな山奥で…野生児に会うとは。」
「せやな………。で?どないするん?ほっとけんやろ?」
「まずは、連れて帰らんとあかんな。話はそれからや。」
蔵ノ助の問いかけに答え、暗くならないうちにと少女を担ぎ上げたそのときだった。
――――――――――がぁぁぁぅぅ!!
振り返ると狼が二・三匹目を光らせ毛を逆立てていた。
「ヤバイ!!!この子の母は狼かっ!!逃げるぞ!蔵ノ助!!!」
行き成りのこと過ぎて、反応が鈍る。
「ぇっ!あっ・・・ああ!!せやなっ!」
急いで、逃げようも前は真っ暗な洞窟。
後ろは狼。
万事休すだ。
「どないすんねん!」
「しかたない!こっちや!」
困っていてもしょうがないと、兄は洞窟の奥へと進んだ。
「どこかに・・・繋がっててくれ!」
そう願いながら、狼から逃げる二人。
少し走ると、小さな光が見えてきて、そこに行きおいよくかける!
「ここ……」
やっと見えた光の先には湖を隔てて、俺たちが止まっている村があった。
「この辺で、少女が目撃されたんわ、この通路があったからか。」
「せやな!…とりあえず、蔵ノ助!ホテルに戻ろう。」
行き成りのことで、兄は少女を抱えたまま走っていたので疲れただろう兄がそう言った。
「せやな。色々、村の人に聞きたいこともあるし。」
そお言って二人はホテルに戻った。