忍び音 第八章「闇知りて動く心」



「雅治様はどうして、悲しそうなのですか?」





行き成りの質問だった。
夜、皆が寝静まる刻、まだ窓越しに月を見ていた雅治に突然の質問。


「驚いたな。…。」

「何にですか?」

「俺のことに…気づいたことに」



それだけ言うと静かに瞳を閉じた。




そして数秒後、瞳を開け話を始めた。



「俺は幼い頃両親を亡くした。戦でな。」


はただ耳を傾けた。

「だから愛を知らずに育ち、いく当てもなく見知らぬ土地をさ迷い歩いた。」


「その間、何もせずにきいれば今、俺はここにはいないじゃろう。
  だから生きる為に兎に角必死でいろんなことをしたんじゃ。」


いろんなことと言いのけたが、きっと色んなことの中には
かなりのことが詰まっているのであろうとは悟った。

「それでも、俺は優しさの欠片もない世界で生きるのには弱すぎたんじゃ。」



「だから、俺は武術や忍術を学んだ。」



忍術……はその言葉に反応しそうだった


「しかし、それが大きな間違じゃった。」

「間違い?」


「ぁあ、それがきっかけで俺は人をたくさん傷つけた、そしてたくさんの人を殺めた。」


の頭にブン太がよぎる。


「俺は今でもそれを悔いている。」


しかし、雅治のその言葉とともにそれは少しずつ消えていく。


「でもそれは、生きていくうえで仕方無ぃ……こと」

「そお言ってくれるんか、お前さんは。」

「私は。ただ…」


本当にそお思ったから。
いや、今私がしようとしている事だからかばったのかも知れない。
色んな思いが頭をよぎり言葉に詰まる。


「お前さんには、話しておきたかった。」


そお言ってこちらに向き直った雅治は
まっすぐを見つめる。

「驚きなさんな……………………俺は忍びじゃ。」


「……。」


は何も言わなかった。

「驚かんのか?」


知っているから驚かない、そんなこといえないと思った。

「知っていたからか。」

まさか、先に言われるとは。

「ぇっ?」

「何となく気づいとったんじゃ。」

「ごめんなさい。」

「なんも、謝る事はなか、秘密にしてたのは俺じゃけん」


ただ、雅治はうつむくの頭にそっと手を置き撫でる。

「俺の秘密は全部じゃ。悪かったな暗いときに暗い話。」

外はもう、漆黒の闇。

「いえ…雅治様が打ち明けてくれたこと嬉しく思います。」

「そおか、そんなら良かった。今日は遅い、もう休もう。」

「はい。」




そっと床に入る二人。
二人の床の距離は変わらずとも、心の距離は大きく変わっっていた




そして、の心はにはもう、憎しみはなくなっていた。